アクセルスペース、ispaceをはじめとする宇宙関連企業が、利益がほとんど出ていない、あるいは赤字であるにもかかわらず、時価総額が1000億円前後という高い評価を受けている点について、その背景には複数の要因が複雑に絡み合っています。
結論から言うと、これらの企業の株価は**「現在の利益」ではなく、「将来の巨大な成長可能性への期待」**を織り込んで形成されているためです。投資家は、今は赤字でも、将来的にその投資が何十倍、何百倍にもなって返ってくる可能性に賭けているのです。
その具体的な理由を、以下で多角的に解説します。
理由1:宇宙ビジネス市場の壮大な将来性
最大の理由は、各社が事業を展開する宇宙市場そのものが、今後爆発的に成長すると予測されている点にあります。
- 世界市場の急拡大: 米モルガン・スタンレーの予測では、世界の宇宙ビジネスの市場規模は2040年に1兆ドル(約150兆円※)を超えるとされています。現在の約3倍以上の成長が見込まれる巨大市場です。
- 多様なビジネス領域: ご指摘の企業は、それぞれ異なる有望な領域で事業を展開しています。
- 衛星データ利用(アクセルスペース、QPS研究所、Synspective): 農業、防災、金融、安全保障など、あらゆる産業で衛星データの活用が見込まれ、その市場は急速に拡大しています。SAR衛星は天候に左右されずに地表を観測できる強みを持ちます。
- 月面開発(ispace): アルテミス計画に代表されるように、世界的な月面探査・開発競争が激化しています。月への輸送サービスや資源開発は、未来の経済圏を創出する可能性を秘めています。
- 軌道上サービス(アストロスケール): 衛星の増加に伴い、宇宙ごみ(デブリ)の除去や衛星の寿命延長は、宇宙を持続的に利用するために不可欠なサービスとなりつつあります。
これらの事業は、数年先の利益ではなく、10年後、20年後の社会インフラを担う可能性があり、その「先行者」としての価値が時価総額に反映されています。
理由2:国策としての強力な後押し
宇宙開発は、経済安全保障の観点からも極めて重要であり、日本政府は国策として宇宙産業を強力に支援しています。
- 宇宙戦略基金: 政府は、宇宙分野のスタートアップなどを支援するため、10年間で1兆円規模という大規模な基金を創設しました。
- 市場規模の倍増目標: 日本の宇宙産業の市場規模を2030年代初頭までに現在の約1.2兆円から2.4兆円へ倍増させる目標を掲げています。
こうした政府からの強力なコミットメントは、企業の信用力を高め、プロジェクトの実現可能性を担保する役割を果たしており、投資家にとって大きな安心材料となっています。
理由3:「PSR」という未来の成長性を測るモノサシ
赤字が先行するグロース株(成長株)を評価する際、PER(株価収益率)のような利益を基準にした指標は使えません。そこで用いられるのが**PSR(株価売上高倍率)**です。
PSR (株価売上高倍率)=年間売上高時価総額
PSRは、株価が売上高の何倍かを示す指標です。現在は赤字でも、売上高が急成長していれば、将来的に利益が大きく伸びると期待されます。投資家は、高いPSRが付いている銘柄について、「今は割高に見えても、将来の売上(ひいては利益)拡大への期待が大きい」と判断しているのです。
宇宙関連企業は、まさにこのPSRで評価される典型的な銘柄群と言えます。
理由4:技術的優位性と先行者利益への期待
宇宙ビジネスは参入障壁が非常に高く、高度な技術力と実績が不可欠です。
- アクセルスペース: 既に10機以上の超小型衛星の打ち上げ・運用実績を持っています。
- QPS研究所、Synspective: 高精細な画像を撮影できる小型SAR衛星の開発・運用で世界をリードしています。
- ispace: 民間として世界初の月面着陸に挑戦するなど、具体的なミッションを進めています。
- アストロスケール: 宇宙ごみ除去という分野で、世界に先駆けて技術実証を行っています。
これらの企業は、それぞれの分野で世界でもトップクラスの技術とノウハウを蓄積しており、競合が少ない市場で**「先行者利益」**を独占する可能性が期待されています。
注意点:高い期待の裏にあるリスク
もちろん、これらの高い評価は期待が先行しているため、大きなリスクも伴います。
- プロジェクトの遅延・失敗: ロケットの打ち上げ失敗や、衛星の故障など、一つの失敗が業績に大きな影響を与える可能性があります。
- 技術的な課題: 計画通りに技術開発が進まないリスクがあります。
- 資金調達: 継続的な研究開発には巨額の資金が必要であり、今後の資金調達が順調に進むかどうかも重要です。
期待が剥落した場合には、株価が大きく下落する可能性も十分にあります。
まとめ
ご指摘の宇宙関連企業が高い時価総額で評価されるのは、目先の利益ではなく、**「壮大な市場の将来性」「国策としての支援」「先行者としての技術的優位性」**といった要素を織り込んだ、未来への壮大な期待感の表れです。投資家は、現在の赤字という事実を理解した上で、それを補って余りある未来の大きなリターンを夢見て投資していると言えるでしょう。
まさに「夢を買う」という投資の側面が、これらの銘柄の株価には色濃く反映されているのです。
参考文献
- 日本経済新聞 – 宇宙戦略基金1兆円、10年で配分 新興の事業化後押し
- 世界経済フォーラム – 勢い加速する日本の宇宙ビジネス
- 東海東京証券 – PSR(ぴーえすあーる) | 証券用語集
- 各社IR情報