AI惣菜だ。
過去最高の売上。大幅な増益。工場はフル稼働。それでも、決算を見て買った半導体株が下がることはある。
会社の説明がおかしいのか。市場が間違っているのか。そう決める前に、分けておきたいものがある。半導体が売れる時期、利益が膨らむ時期、株価が期待を織り込む時期は、必ずしも重ならない。
今回は、半導体景気の波である「シリコンサイクル」を、日本の関連6社を通して読む。天井の日付を当てる話ではない。好決算のどこを見れば、その先の変化に気づけるのかという話だ。
まず、足元の強さを認めるところから
2026年10月15日に発表されたTSMCの7〜9月期決算では、米ドル建て売上高が467.2億ドルとなり、前年同期比41.2%増えた。10〜12月期の会社予想も523億〜543億ドル。先端プロセスへの強い需要が続く見通しを示している。[TSMC・2026年第3四半期決算]
この数字から「半導体の需要はもう終わった」とは読めない。一方で、需要が伸びるという事実だけでは、関連株をいくらで買っても報われることにはならない。
読者が知りたいのは、AIが今後も使われるかどうかだけではないはずだ。その成長で、どの会社の利益が、株価に織り込まれた期待を超えられるのか。ここまで踏み込むと、同じ半導体株でも見え方が変わってくる。
シリコンサイクルは「足りないから増やす」の時間差で動く
半導体が足りなくなると、顧客は早めに発注し、メーカーは増産を決める。ただし、工場を建て、装置を入れ、良品を安定して作れるようにするには時間がかかる。
ようやく供給が増えたころ、顧客の倉庫には十分な在庫が積み上がっているかもしれない。最終製品が売れ続けていても、買い置きを減らす期間には半導体の注文が落ちる。値下がりや減産を経て在庫が減ると、次の不足が意識される。これが景気の波を生む一つの仕組みだ。
周期を「何年に一度」と覚えても、投資の時計には使いにくい。工場の増設、製品の世代交代、顧客の在庫調整が同じ速さで進むわけではないからだ。SUMCOも、最終製品の需要や半導体価格の変化が、ウェーハの需要・価格に影響すると説明している。[SUMCO・事業リスク]
さらに、AIの計算を担う先端半導体、DRAMを積み重ねた高速メモリのHBM、データを保存するNAND、自動車や工場で使う半導体では、買い手も必要な設備も違う。HBMが足りないというニュースを、そのまま全種類の半導体不足に広げてはいけない。
最高益でも株価が下がる。その理由を数字にすると
説明のため、架空の会社を考えよう。1株当たり利益が100円で、株価が3,000円なら、PERは30倍だ。PERとは、株価が1株当たり利益の何倍になっているかを表す数字である。
その後、利益が150円に増えても、投資家が「この利益は長続きしない」と考え、20倍で評価するようになれば、株価は計算上3,000円のままだ。18倍まで下がれば2,700円。利益が50%増えても、株価が10%下がる組み合わせはあり得る。これは実在企業の予想ではなく、利益と評価の関係を示す例だ。
逆に、利益が落ち込んでいる時期に、次の回復への期待で株価が上がることもある。株価は常に決算より何か月先を動く、と固定できるわけではないが、発表済みの好業績だけを見ていると、このずれを見落としやすい。
好況時にPERが低く見えるのも同じ理由だ。分母の利益が一時的に膨らんでいれば、割安に見える。今の利益だけでなく、販売価格や稼働率が落ち着いたときに、どれだけ残るかを考えたい。
値上がりで稼ぐ会社、設備投資で稼ぐ会社
キオクシアホールディングス(285A)|NANDの価格と、売れる容量を分ける
キオクシアの主軸はNAND型フラッシュメモリとSSDだ。電源を切ってもデータを残せる記憶装置を供給する。2026年6月のInvestor Dayでも、AI推論で使うストレージや、データセンター・企業向け製品への注力を示した。[同社説明資料]
ここで見たいのは、増収を「高く売れた分」と「多く売れた分」に分けることだ。メモリの数量は、チップの個数だけでなく、記憶容量の合計でも考える。価格が上がって売上が伸びているとき、容量の伸びまで同じ勢いとは限らない。
また、高付加価値のSSDが増えれば、製品構成の変化でも平均単価は上がる。平均単価の上昇をすべて市況の値上がりと読むのも早計だ。NANDの価格、出荷容量、SSDの構成、容量当たりの製造コストをつなげると、利益の持続性を考えやすい。HBMとNANDは別の製品であり、「AIメモリ」の一言で同じ商売にしてしまわないようにしたい。
東京エレクトロン(8035)|顧客の「もっと作りたい」を装置に変える
東京エレクトロンは、半導体を作る工程で使う製造装置を供給する。顧客の増産投資に加え、微細化やメモリの積層数増加など、新しい作り方への投資も商機になる。
2026年8月公表の決算説明会Q&Aでは、AIが先端投資を牽引し、HBMやGPUに加えてCPU、NANDの需要も拡大していると説明した。工程ごとの技術変化が、装置の需要を作っている。[2027年3月期第1四半期Q&A]
だから、半導体市場全体の成長率だけでは読み切れない。顧客がどの製品に設備投資を振り向けるか、その工程で同社の装置が採用されるかが効く。一方、顧客の工場建設や装置の導入が後ろにずれれば、長期需要が残っていても、目先の売上計画は動く。投資計画の総額と、実際の納入時期は一緒に見たい。
アドバンテスト(6857)|半導体の個数に加え、検査の難しさでも需要が変わる
アドバンテストのテスタは、半導体が求められる性能で動くかを調べる装置だ。2026年7月の業績予想では、AI半導体の生産数量増加と複雑化を背景に需要拡大を見込み、特に推論用AI半導体のテスト需要が4月時点の想定を大きく上回ると説明した。[7月29日発表・業績予想]
ここには、作る個数の増加だけではない成長要因がある。一つのチップを調べる負荷が重くなれば、必要なテスト能力も変わる。半導体全体の数量が同じでも、製品の難しさによって装置需要は違ってくる。
反対に、顧客が十分なテスト能力を確保したり、検査の効率が上がったりすれば、増設のペースは変わる。見るべきはAIの利用者数だけではない。次世代チップへの移行と、顧客の検査設備がどこまで埋まっているかだ。
工場の動きと在庫から、波の広がりを読む
ディスコ(6146)|売上高の横に、出荷額を置く
ディスコは、半導体などを切る・削る・磨く精密加工装置と、加工に使う消耗品を供給する。この会社には、決算の読み方を変えてくれる説明がある。
2026年4〜6月期の説明資料は、装置の売上が顧客の検収に左右されるため、設備投資意欲を見るなら出荷額を参照するよう案内している。装置を送り出す時点と、顧客が受け入れを確認して売上になる時点には、ずれがあるのだ。[同四半期説明資料・2ページ]
売上だけが上下しても、それが需要の変化とは限らない。出荷額を並べ、さらに顧客の設備稼働と関係する消耗品の動きを見る。新しい装置を入れる勢いと、すでにある装置を動かす勢いを、別々に読めるところが面白い。
SUMCO(3436)|半導体の土台でも、AI需要が均等に届くわけではない
SUMCOは、半導体の材料となるシリコンウェーハを製造する会社だ。完成した半導体の価格が上がることと、材料の出荷枚数が同じ割合で増えることは別である。[会社概要]
顧客が手元のウェーハ在庫を使って生産を増やす局面なら、新しい購入はすぐに増えないこともある。先端品の需要が強くても、他の用途や口径まで一様に回復するとは限らない。
この会社を通して見たいのは、AIの好況が半導体生産のどこまで広がっているかだ。出荷数量、製品構成、顧客の在庫、工場の稼働を合わせて考える。新設備の費用が先に増え、数量の回復が遅れれば、将来に向けた投資が目先の利益を圧迫する場面もあり得る。
ルネサス エレクトロニクス(6723)|在庫が増えた、それだけで悪化と決めない
自動車、産業、インフラ、IoT向けに事業を持つルネサスは、AIの最先端チップだけでは見えない需要を考える手掛かりになる。
2026年4〜6月期の資料では、自社在庫の金額が増えても、在庫日数を示すDOIは低下した。販売チャネルでも、在庫は増えた一方、在庫週数を示すWOIは低下した。販売の動きに照らすと、金額の増加だけでは滞留の悪化と言えない例だ。[第2四半期資料・7ページ]
逆も考えられる。在庫金額が横ばいでも、売れる速度が落ちれば、抱えている期間は長くなる。メーカーから代理店への出荷と、代理店から顧客への販売を分けて見ると、在庫補充による回復なのか、最終需要も伸びているのかを判断しやすくなる。
天井を疑うなら、一つの数字で決めない
私なら、まず価格と数量が一緒に鈍っているかを見る。価格上昇が落ち着いただけなら、供給が追いついて市場が健全化した可能性もある。出荷の伸びも鈍り、在庫期間まで延びているなら、需要と供給の関係を見直す理由が増える。
次に、顧客の設備投資計画が、実際の出荷につながっているかだ。「数年先まで需要がある」という説明と、今四半期の納入延期は両立する。出荷が落ちても、需要減なのか、供給側の部材不足なのかで意味は逆になる。決算資料の理由まで読む必要がある。
そして、上方修正が続くための条件が残っているかを考える。数量増、値上げ、製品構成の改善、円安。どれが利益を押し上げたのかを分けると、次も繰り返せる部分が見えてくる。前年比の高い伸び率も、前年が低かっただけなら、足元の勢いをそのまま表してはいない。
これらは天井を知らせる万能の信号ではない。需要が強く、供給能力の増加が追いつかず、顧客の採算も保たれているなら、好況はさらに続き得る。株価の下落も、金利や為替、政策、投資家の売買によって起きるため、それだけでシリコンサイクルの反転と判断できない。
AI惣菜の見方
半導体を「AIだから全部強い」とまとめると、企業ごとの稼ぎ方が見えなくなる。NANDの値上がりで利益が膨らむ会社と、検査の難しさで装置需要が増える会社と、顧客の在庫消化を待つ会社では、同じニュースの意味が違う。
私が次の決算で読みたいのは、最高益という見出しの、その次の一文だ。価格はどうか。出荷はどうか。在庫は何週間分か。顧客は増設を急いでいるのか。
半導体の天井を考える出発点は、今の利益が何に支えられているのかを確かめることだ。その支えが変わる場所から、6社の決算を読み直したい。
参考資料
本文中に各社の一次資料へのリンクを記載。情報確認日:2026年10月20日。会社の見通しと実績を区別して記載し、PERの計算例は架空の数値を使用している。
